ドイツ「コンラート・アデナウアー財団」の招聘でドイツの社会市場経済を視察
2010年8月22日から27日まで、ドイツの「コンラート・アデナウアー財団」の招聘により社会市場経済を学ぶ視察に出かけました。

日本の政党として私と民主党の中林美恵子議員、他に読売新聞記者、慶応義塾大学教授、経済広報センターの方、計5人での訪問です。

与党キリスト教民主系のコンラート・アデナウアー財団をはじめ、ドイツ連邦省、ルドウィヒ・エアハルト財団、ドイツ連邦独禁庁(カルテル庁)、IT企業経営者、ハンブルグ商工会議所、在ハンブルグ総領事館、ベルリン日本商工会、ドイツ議会(下院)など精力的に訪問させていただき、主にドイツの社会市場経済という概念と政治・行政・社会のさまざまな情勢について有意義なお話を伺いました。

ドイツは中央集権でなく、16の連邦州が学校や教育のあり方などを独自に決めることができる地方主権が確立した国家です。そのため全国統一の政策をとることは非常に難しく、州によって経済的格差があり、またユーロ全体とのバランスが難しいという悩みを抱えながらも、地域の自由な発想と特長を生かした町づくり、国づくりが行われています。
国民はドイツ人としての誇りや帰属意識をもつだけでなくむしろそれ以上に強く「〇〇州人」としてのアイデンティティーを持っています。ギリシャ危機に機敏に対応し、操業短縮労働制度の政策効果もあり、現在、雇用・経済は比較的、順調に伸びています。

社会市場経済というのは聞き慣れない言葉ですが、第二次大戦後2代目の首相となった「ルドウィヒ・エアハルト」が説いた概念です。現在もキリスト教民主をはじめ社会同盟、自由民主党の3つの政党が主張し、国民、市場にも広く支持されています。制約なく際限なく資本主義、自由主義を追求すれば必ず寡占や独占が起こり、弱肉強食になる。持続可能な経済発展のため、自由競争を重視しながらも場合によっては国家が市場を規制し、調整することによって社会全体のバランスを維持する考え方のようです。
このような考え方を世界に広めるべく今回、私たちを招聘してくれたコンラート・アデナウアー財団などは、さまざまな活動を国内外で行っています。


社会市場経済という概念について私自身、まだまだ勉強不足でありますが、多いに共感・共鳴できるところがありました。その一方で負の作用もあるようです。国民が国からお金をもらいたがる、働くインセンティブが薄まっている、企業が補助金なしでやっていけなくなっている、何でも社会保障で賄ってもらおうという甘え、働いて収入を得る人より社会福祉を受けている人の方が得をする仕組み。日本にも置き換えることができるのではないでしょうか。
ドイツも構造的に過去からの国家負債を抱えるなかで、ただ単に保護主義の政策をとることは限界があり、新たなルール、秩序、道徳、教育が求められています。


2009年9月に連邦議会選挙が行われ、メルケル首相率いるキリスト教民主党と社会同盟党が第1党の座を維持しています。しかし、少子高齢社会に対応するための保健制度改革や税制改革等をめぐる調整の困難等が続き、支持率は低迷した状態に。また、昨年は憲法にこれ以上の借金をしないという基本法を書き込み、2012年以降、大胆な改革、痛みを伴う倹約に取り組むことになりました。
政権にとっても、国民にとってもいばらの道が予想されますが、政府も国民もリーマンショック以来の金融危機を経験し、内閣支持率や世論に一喜一憂することなく腰を据えて取り組む決意が示されたそうです。物事に行き詰まれば即解散、即総理交代ではなく政治家も国民も結果が出るまで頑張りぬく辛抱強さが大切だと感じました。

ドイツは基本的に労働者の立場に立った政策が行われています。また、95%が有限会社など同族会社で、大企業に一人勝ちさせないための規制が多々あります。大概の店舗は夜8時に閉まり、日本のコンビニのように深夜まで営業するところはありません。以前は夕方6時に閉めてしまうのが大半で、住民も便利さや快適さを追及するよりも健全な働き方、暮らし方を大切にしています。ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の両立支援)にも熱心で、女性は妊娠したら解雇できない法律により守られています。
出産の半年前から休業が可能、給与も保障されます。職場を離れたとしても最大3年間は職場復帰する権利があります。入社したばかりの社員の教育について、研修費として国が企業へ補助金を出し人材の育成に力を入れています。父親の育児休暇が進む政策によって今では全体の20%の父親が育児休暇を取得するようになりました。


社会市場経済を維持するには使用者と労働者の関係、交渉が重要な鍵を握るため、労使が共に話し合う、共に拠出金を出し合う、さらには取締役会に労働者の代表が出て行き発言するなどの環境が整っています。ドイツには全国統一の最低賃金はありません。賃金の交渉は使用者と労働者に任されており、国は関与せず、あくまで当事者が自主的に考え、決定する権利を守るという立場です。
しかし、近年外国から未熟な労働者が入ってきており労働契約を守る使用者が減少、労働組合に入らない人も増えるなかで、国が全国統一の最低賃金を決めるべきだとの声が上がるようになりました。議会で活発に論議された結果、政治が介入することや、ひとつの労働契約をすべての業種に適用することは危険であるとの意見が多数を占め、現在も業種別の最低賃金に従うことになっています。


ドイツには日本から多数の企業が進出しています。ドイツから見る日本の政治はどのように映っているのでしょうか。急激な円高に対して日本政府のメッセージがまったく見えないこと。首相が1年で交代し、国家ビジョンが示されないこと。海外から日本に進出する場合、規格や規制、手続きが複雑で省庁ごとにバラバラ、矛盾しているので、日本は海外からの投資を拒んでいるとしか思えないなどの苦言をいただきました。
メイド・イン・ドイツを売りに行くときメルケル首相が先頭に立って売り込みに行き、首相が外国を訪問する際には必ず経済界のリーダーがついて行く。これに比べると日本はまだまだ官民一体の取組みが弱いとのご意見も伺いました。


日本の国会はドイツの帝国議会をモデルにしてつくられました。健康保険制度、年金制度、介護保険制度もドイツに見習って制度設計されました。そのドイツも日本と同じような悩みと葛藤を抱えています。過去からの負債、少子高齢化への対応、一瞬にして影響を受ける金融危機、単独政権でない連立政権ゆえの不安定さ。多くの先進国が抱える共通の課題なのかもしれません。
議論好きで理屈っぽいドイツの人々。国の現状、未来への展望について雄弁に語ってくれました。アメリカ式ではない、イギリス式ではない、ドイツ式の国のかたちを今も粘り強く探求し続けています。市場経済は万能でないからこそ連帯と補助が必要であり、人間も万能でないからこそ連帯と補助が大切なんだよと教わったような気がします。「勇気ある政治家は自分の植えた木の実を食べられない」という言葉と共に、忘れられない、得がたい経験となりました。貴重な機会をいただいたことに深く感謝しています。
